「やさしい涙」 H22.1.27(水) 晴れ

子ども達に「きつねとぶどう」という絵本を読んであげました。お腹をすかせた子ぎつねのために、母ぎつねは食べ物をとりに行きます。しかし、ぶどうを一房くわえて巣穴に戻る途中、犬と猟師が近づいてきました。「ぼうや!あぶない、逃げなさい。」と叫ぶ母ぎつね。子ぎつねは夢中で走りました。走りに走って、ひとり山の奥。「おかあさんは、どうしたんだろう。」と、お母さんを探しながら山を歩いているうちに何年か経ちました。ある日、昔お母さんと住んでいた巣穴の近くを通りかかったときのこと、大きなぶどうの木に沢山ぶどうがなっているのを見ました。「こんなところにぶどうの木があったかな」と思いながらぶどうを食べました。その時、なぜここにぶどうの木があるのかが分かりました。そして空に向かって、「おかあさん、ありがとう。」と子ぎつねは言いました。

後半部分は、何回読んでもグッと胸が熱くなります。子ども達も好きなお話なのですが、奥が深いお話なので、「おかあさんは、どこに行ったのかな?」、「どうして、ぶどうの木があったんだろうね。」という質問もよく出ます。そこにぶどうの木がある理由を理解するのは、1回読んだだけではなかなか難しいようです。そこまで分からなくても、物語り全体に流れる情感を味わえればよいと思って、あえて説明はしていません。(何回か読むうちに自然と気付きます。)

今日も「素敵なお話だったね。」と言って本を閉じました。その時、前に座っていた女の子の目に涙がたまっているのを見ました。「どうしたの?」、「何でもない。」「お話きいて悲しくなっちゃった?」、「ううん、違う。」と笑いながら涙をぬぐいます。いつもとっても元気で明るい女の子です。母ぎつねの想いも、子ぎつねの想いも、しっかりと心に留めて、ぶどうがなっている情景に想いを寄せているのでした。

年中の子です。なんて優しく、感受性が豊かなんでしょう。そして周りの子もまた、その涙の意味を理解して、そこから何かを汲み取ろうとしていました。普段はやんちゃな年長の男の子も、小さな年少さんも、形にはならない何かをつかもうとしています。一人の子の涙が、「その場全体を優しく包んだ瞬間」を誰もが味わっているようでした。